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広島高等裁判所 昭和24年(ツ)11号 判決 1949年12月23日

上告人 控訴人・原告 岸本正信

訴訟代理人 田坂戒三

被上告人 被控訴人・被告 森九十郎

訴訟代理人 波多野隆助

主文

原判決を破棄し本件を岡山地方裁判所に差戻す。

理由

本件上告趣旨は末尾添付の上告代理人提出の上告理由書謄本記載の通りである。

上告理由第二点に対する判断。

原審は甲第一、二号証はこれを原審における証人林文一の証言被控訴本人の供述及び成立に争ない乙第一号証成立及び原本の存在につき争のない乙第二号証を綜合すれば、昭和十二年十月十日控訴人が被控訴人より本件土地の隣地である字塚本四百八十六番の一の七十坪の土地を賃料一年玄米二斗五升期限の定めなく賃借した事実を認めるには足るが未だ以て本件土地を賃貸した事実を認める資料とし難いと説明して上告人の請求を排斥した。

しかし、甲第一号証である昭和十六年十二月二十五日附被上告人から上告人に宛て作成した受取証には「宅地桝切米二斗五升(芝山込ミ)右二斗五升代金十円六十一銭正ニ受取申候也」との記載してあり、同号証が真正に成立したものであることは原審の確定したところである。そして原審昭和二十四年五月十六日の口頭弁論調書と第一審昭和二十三年一月二十七日の口頭弁論調書とによれば、原審において上告人は甲第一号証中に「芝山込ミ」とあるのは本件係争地の意であり、賃料は字塚本四百八十六番地の宅地と一緒で玄米二斗五升であると主張したことが明かであつて、上告人が原審において援用した第一審の検証の結果及び証人沼田竹代、湯浅孝子、藤田政為等の供述によると係争地は右宅地に隣接し、地上には立木は殆んどなく雑草が生えている程度で所謂芝山であることが認められないことはない。

然らば、もし甲第一号証に所謂芝山が係争地に該当し従つて同号証がこれらの土地の賃料領収証であるならば特別理由の判示がない限り同号証によつて本件係争地の賃貸借の事実を推認しえられないことはない。もし同号証に所謂芝山は係争地に該当せず、他の土地であり従つて係争地の賃料領収証でないならばその旨の説明を加えねばならぬ。然るに原判決挙示の各証拠を綜合するも以上の点につき首肯すべき理由を見出すことができぬ。即ち原判決が甲第一号証に関し何等判示するところなく前段摘録の事実を認定して上告人の請求を排斥したのは畢竟審理不盡か、もしくは理由不備の違法があるといいうる論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。よつて上告理由第一に対する判断を省略し民事訴訟法第四百七条の規定により主文の如く判決をする。」

(裁判長判事 小山慶作 判事 井上開了 判事 宮田信夫)

代理人田坂戒三上告理由

第二点原判決は採証の法則に違背して事実を認定した違法な判決であると思う。上告人は本件山林が上告人の賃借中のものであることを立証する為め甲第一、二号証を提出した同号証は争なきものであつた。そして同号証中「芝山込ミ」とあるは本件土地の意なり、又賃料は御津郡長田村大字下土井字塚本四八六番地の宅地を一緒で玄米二斗五升なりと釈明したことは(第一審第二回口頭弁論調書御参照)記録に明白なところである。而して検証の結果によれば四八六番地ノ一と四八六番地とはその境界は判然しないが四八六番地と思料せられる部分に居宅その他木小屋などがあり、該居宅に面した山裾の傾斜面と居宅裏の竹やぶの一部分が本件係争地であり、その係争地であることについては双方争がなく、且つ各係争部分には立木は殆んどなく、雑草が生えている程度であることが明にされている。証人神島順次郎、沼田竹代、湯浅孝子、藤田政為、小谷三郎、石森賢一等の供述を考え合すと右係争地が少くとも所該芝草山であることも想像に難くないと思える。これを甲第一号に対照すれば昭和十六年十二月二十五日宅地及「芝山込ミ」の桝切米代金十円六十一銭也の授受が当事者間に行われた事実も否定出来ない。即ち「宅地桝切米弐斗五升(芝山込ミ)」なる記載はその文言及配列の体載よりするも十人が十人芝山を含んでの賃料であると観ることが吾人の実験則に合致すると考える。蓋し若し芝山を除外する意味であるとすれば斯る註釈を加える必要はないからである。而して控訴代理人は既述のように此点の釈明を為し居り被控訴人からは何等の証拠抗弁なかりしことも記録上極めて明白である。果して然らば当事者間に本件以外の宅地及芝山の貸借なき限り右は本件宅地及山林に関するものと観るの外なく然るに之を度外視して為されたことは即ち採証の法則を誤つた違法の判決であるから破棄せらるべきものと思う。

(上告理由第一点は省略する)

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